はじめに

外来診療を終えたあと、退院サマリや紹介状の入力に追われて気づけば夜遅く――。
そんな経験をしたことがある方は少なくないと思います。

診療記録や文書作成は医療に欠かせないものですが、現場では「患者と向き合う時間より事務作業が多い」と感じる瞬間もあるでしょう。働き方改革が叫ばれるなか、医師の残業時間を大きく左右するのがこの“文書業務”です。

近年、この課題を解決する選択肢として注目されているのが 生成AIによる文書作成支援 です。AIが叩き台を用意してくれるだけで、医師は「修正と確認」に集中でき、業務の質とスピードが大きく変わります。

文書作成にかかる負担

文書業務は医師の1日の大きな割合を占めています。

ある総合診療医はこう語ります。

「診療そのものよりもサマリに疲れる日がある。患者さんに向き合いたいのに、気持ちが書類に持っていかれる」

時間がかかるだけでなく、精神的にも負担の大きい領域です。

実際に、AIを活用した文書作成支援の効果は報告されています。

東北大学病院 × NEC
退院サマリ作成時間が47％短縮。年間500時間以上の業務削減に寄与したと報告されています【NEC/東北大学, 2024】。

Stanford Medicine
診察会話をAIが自動で要約しSOAPノートを生成。医師の**96％が「使いやすい」**と回答しました【JAMA Netw Open, 2022】。

いずれも「AIが素案を作り、医師が確認する」という流れで活用されています。

従来は作成に30分～60分かかっていましたが、AI導入後はわずか5分～10分で完了します。これにより、最大で80%もの時間が削減されました。

作成に20分～40分を要していた紹介状は、AI導入後3分～5分で作成可能になりました。時間削減率は約80%に達します。

従来、数時間を要していた学会抄録の作成は、AI導入後30分程度でできるようになり、約75%の時間が短縮されています。

ChatGPTやClaudeに診療メモを入力し、退院サマリや紹介状の下書きを生成します。

例：

以下の診療メモを基に退院サマリを作成してください。
・入院理由：心不全増悪
・経過：利尿薬調整で改善
・退院処方：フロセミド20mg、エナラプリル5mg
・指導内容：塩分制限、体重測定
形式は【入院経過】【退院処方】【指導内容】に分けてください。

冗長な表現はClaudeで整理。文体（「です・ます調」「である調」）も指示できます。

Open EvidenceやMedGenを利用して、ガイドラインの要点を加えれば信頼性が向上します。

AIを導入する上で気をつけたいのは次の3点です。

ある整形外科医はこう話しています。

「AIがまとめてくれるおかげで抜け漏れが減った。ただ、最後は必ず人間の目で読む。そこを怠ると危険だと思う」

私自身、最初は「AIが退院サマリを書くなんて危ない」と疑っていました。
けれど、いざ使ってみると「ゼロから書く」と「AIの素案を修正する」では疲労感が全く違うことに驚かされました。

残業が30分減るだけでも、心の余裕は大きく変わります。まずは紹介状1通をAIに下書きさせてみる。その小さな一歩が、大きな変化の始まりになると実感しています。

次回は 「小さな影を見逃さない」外来での画像診断AI活用法 を紹介します。
胸部X線や脳動脈瘤診断など、AIが“第二の目”としてどう使えるのか、国内外の事例とともに解説します。